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風立ちぬ

日々の想いを風に乗せて…

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イーハトーブの旅(羅須地人協会の出逢い) 

また、素敵な金色の海の中を、アイリスの運転する車は、緩やかに優しく走り抜けた。
わたしは、サイドシートで流れる風景を眺めている。
ここは、花巻…賢治が愛したイーハトーブ。「とっても綺麗だね…アイリス」
『うん…今、イーハトーブを走っているんだね。』わたしたちは、言葉少なになっていた。

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やがて花巻空港の誘導灯が続く広い草地を横切って、川幅の広い北上川を渡ると行く手に学校の建物と敷地が見えてきた。
『もしかして、あれが花巻農学校かな?』
「うん、他に無いから、そうだと思う。駐車場はどこかしら?」
どこに止めてもいいくらい、田んぼや畑ばかりの場所だけれど、わたしたちは駐車場を探した。
やっと見つけた駐車場は、畑の片隅に申し訳程度整地した5台も止めたらいっぱいになってしまうくらいの小さなスペースだった。
車を止めて外に出ると、駐車場の回りは、ただ広い野原が広がっていて野葡萄の薄紫の実が風に揺れているのだった。
花巻農学校はぐるりと林に囲まれて周りは畑や田んぼや野原が続いていた。
思っていた以上にずっと長閑な風景に心和んだ。

手作りの「羅須地人協会は、こちらへ」の案内板を見ながら通りを渡って、石造りの裏門をくぐった。
後で知ったのだが、この裏門は、昔の正門を移築したものだそうだ。
まばらに植えられた雑木林を透かして、小さな家が見えた。

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『あれが、賢治さんの家かしら?』わたしたちは、ドキドキしながら、林の中の小道を歩いていった。
すると、今しがた家から出てきたばかりという感じで男の人が歩いてきた。
お互いにチラッと目が合い、『こんにちわ』とにこやかに挨拶を交わしすれ違った。
『初めて人に逢ったね。きっと賢治が好きな人なんだろうね。なんか優しい感じがしたもの』とアイリスが笑顔を向けた。
「うん、きっと、そうだよ。なんとなく見たことがあるような人だったね。」とわたしも答えた。

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質素なこじんまりした木造の家、いかにも賢治さんの家らしいなぁ…と、そう思った。

      野原の松の林の影のちいさな茅葺の小屋にいて…

雨にも負けずの一説が、わたしの胸をよぎった。

わたしの前を歩いていたアイリスが、一足先に、小道の最後の角を曲って家の正面に
立って、『ああ!…』と、小さく感嘆の声をあげた。わたしも続いて回りこんで見
て、同じように声をあげていた。

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「下ノ畑ニ 居リマス   賢治」

見たかったあの黒板の文字が目に飛び込んできた。
これが、賢治さんの文字…なんて優しい字なんだろう。
胸がキュンとなって、恥ずかしいけれど…何だか、訳も無く涙が溢れてきてしまった。

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「わぁ…なんだかとっても感動してしまったよ。涙まで出てきちゃって…
アイリス、連れてきてくれて本当にありがとう。こんなに感激するとは自分でも思わなかったよ。」
『わたしも、凄く、感動した。なんだか賢治さんに逢えた気がするね!』と、アイリスも涙ぐんでいた。
『おかあさん、入ってもいいのかな?ご自由にお入りくださいって感じでドアが開いてる。』
「きっと、さっきの人も入ったのだろうから大丈夫だよ。」
写真を撮っているわたしよりも、また、一足先に、アイリスは遠慮がちに靴を脱いで入り口の廊下にあがった。

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そして、机に置かれた雑記帳を覗き込んで、『うわぁ!凄い!!』と、驚いている。
「え?どうしたの?」と、不思議に思って訪ねると、『おかあさん、すごいよ、さっきすれ違った男の人、青梅の人だよ!』と言う。わたしも、びっくりして雑記帳を覗き込んだ。
“初めて来て感激しました。また来ます。東京都青梅市 ●●●●”の文字。なんて偶然なんだろう。
同じ日の同じ時間に、前後してこの場所を訪ねたのが、わたしたちと同じ街に住む人だったなんて…
こんな偶然もあるんだね。なんて話しながら、めぐり合わせの不思議さに、わたしたちはすっかり興奮してドキドキしてしまった。
そして、雑記帳に“母娘二人で賢治さんに逢いに来ました。いつまでもこの場所に、このままの形で残しておいてください。きっとまた、訪ねて来ます。”と書き込んだ。

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賢治さんの家は細い廊下を挟んで、洋室と和室とに別れていて、小さな階段で2階へと続いていた。
2階には、上がれないようになっていたが、下の部屋は自由に出入りできるようになっていた。

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わたしたちは、入ってすぐに、衣装掛けにかけられた賢治さんの外套とトランクに感動した。
そして、洋室に入ると、部屋の中央に置かれた火鉢と、それを囲むように円陣に置かれた木の椅子。
丸椅子だったり、背もたれのある椅子だったり、形のまちまちな椅子が、何気なく床に置かれている。
まるで、つい昨日まで、志をもった若い農業家や新しい農業の開拓に燃える青年たちが座り語り合っていたような錯覚に落ちた。
そして、青年たちが見つめる先の黒板の前に立って賢治先生が教えているような気がした。

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壁に飾られた賢治さんの写真や、原稿、楽譜、絵などを見ていると、すぐそばに、賢治さんがいるような気持ちになるのだった。
『おかあさん、やっぱりわたし、賢治さんに逢えたような気がするよ。ここに、居るみたいな気がするよね。』アイリスが感慨深そうにつぶやいた。

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和室に座り、そこから見える窓の外を眺めると、緑の芝生の庭が続き、その庭では農学校の生徒たちが、楽しげに寛いでいた。
「きっと、賢治さんは、いまでもここから生徒たちを見守っているのかもしれないね。」
そんなことを語り合いながら、わたしたちは、時間が止まったような賢治の家の中を眺めたのだった。

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本当に小さな質素な家なのだから、見て回るのにそんなに時間はかからない、
実際見ていたのは30分ほどだったかもしれないのに、長い時間が流れたような不思議な安らぎに包まれたのだった。

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名残り惜しいけれど、わたしたちは外に出た。
そして、庭を少し歩いて賢治の像のところまで行った。その像は、ベートーベンを真似て撮ったというもので、外套に山高帽を被った賢治がうつむきながら佇んでいる姿だった。

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アイリスは、賢治のこの写真が一番好きだと言う。
『賢治さんて、おしゃれな人だったんだと思うわ。』そう言って、笑いながら同じポーズをとったのだった。
わたしたちが、写真を撮りあっていると、講堂の中から出てきた生徒さんが、
『こんにちわ』と元気良く挨拶をしてくれた。見ると手にみな太鼓を持っている。
わたしたちも、挨拶を交わしながら、「その太鼓は何に使うんですか?」と訪ねてみた。
その生徒さんは、『これから鹿踊りの練習をします。』と答えた。
「あの伝統芸能の鹿踊りを学校の授業でやるんですか?」と訪ねたら、部活でやっているとのことだった。

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賢治さんは、子どもたちが鹿踊りの練習をしているのを見るのが好きだったという。
わたしは、見てみたいと思ったが、まだ、これから遠野へと向かわなければならないので諦めた。
太鼓だけを撮らせてもらい、「頑張ってくださいね!」と別れた。
生徒さんは、『ありがとうございます。』と元気良く答えて見送ってくれた。
『素直でかわいい高校生だね!』と、アイリスが大人びた顔で言ったので、つい、
笑ってしまった。

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わたしたちは、ゆっくりと、何度も賢治さんの家を振り返りながら、駐車場へと戻って来た。
静かで、誰にも逢わずにわたしたち二人だけで賢治さんの家で過ごした時間が凄く貴重な気がした。

『おかあさん、結局、誰も来なかったね。もしかしたら、今日、賢治さんの家を訪ねたのはわたしたちと、青梅から来たもうひとりの男の人だけだったのかも知れないね。』とアイリスが言った。
「うん、本当に不思議だよね。ここはメインの観光地から少し離れた場所にあるから、あまり訪れる人はいないのかも知れないね。」
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そして、わたしたちは、ここに来れたしあわせを噛み締めたのだった。
『では、遠野へと向かいます。目標は伝承園ですね!』と、アイリスは少しおどけて
言った。「はい、運転、よろしくお願いします!」わたしたちは、遠野へと向かっ
た。(続く)

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category: 森・山

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コメント

素敵な旅、そして素敵な場所ですね、行ってみたくなりました。そしてしーちゃんの言葉のチカラで、賢治の世界にもぐいぐい引き込まれましたよ^^

masa #kKM/VHME | URL | 2010/10/05 00:04 - edit

まだまだ話の先は長いのでしょうね(^_^)
時間のほうもゆっくり流れて行くようです。

kan #5wY3J9rw | URL | 2010/10/05 23:38 - edit

masaさん、どうも~(*^_^*)
お忙しいのに読んでくれてありがとう。
短いけれど充実していた旅でしたよ。
旅にはいろんな形があるのでしょうね。
まるで、人生みたいに…
きっと、これがわたしたち流ってところかな?素敵な旅って言ってくれてありがとう。

sizuku #a8vfL3MM | URL | 2010/10/06 01:09 - edit

kanさん、どうもです~(*^_^*)
はい。まだまだ、長~いです^_^;
あと4~5日は綴っていそうです
本当はすぐに終わりそうな短い旅だったんですが(笑)
よろしかったら、気長にお付き合いくださいね(__)

sizuku #a8vfL3MM | URL | 2010/10/06 01:16 - edit

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