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風立ちぬ

日々の想いを風に乗せて…

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銀河鉄道の旅☆ 

アイリスはこのところ、宮澤賢治にはまっている。
“宮澤賢治を旅する”そんなタイトルに惹かれて、雑誌を買ってしまったという。
『なんとなく、おじさんとかが読むような雑誌みたいだったから、買うのが恥ずかしかったんだけれど、どうしても読みたくて…』とちょっとテレながら雑誌を見せてくれた。
その雑誌の表紙には、帽子を被り、外套を着た賢治が、うつむき加減に佇む姿。
農地に佇む賢治の写真が、黎明の星空をバックに描かれていた。

その夜、雑誌を抱えながら、アイリスは少し早めに自分の部屋へと上がっていった。
ベットの中で、雑誌のページをめくりながら、銀河を巡る夢を見ているのだろうか?
数日後、アイリスは、こんな事を話し出した。

『おかあさん、賢治って、やっぱり心の深い、慈悲深い人だったんだね。
裕福な家に生まれたけれど、安定した生活ができる家業は継がずに、教師になる。
教え子たちを通じて、農村の貧困を知った賢治は教員を辞め、自ら農民となって、農民が安定して暮らせるようにと献身的に尽くす、あえて苦難の道をえらんだんだって。
農家を一軒一軒回っては、農業のやり方などを教えて歩いたけれど、自分は借金をしても全て無償で行ったんだって。

だけど、農家の貧しさはそれだけでは救えないと判って、今度は肥料の石灰の普及のために、営業マンとなって売り歩くんだけれど、夜も寝ないで、頑張りすぎて志半ばで病に倒れてしまったんだよ。
その病の床で書いたのが、“雨にも負けず”の詩だったんだって。
詩の中で何度も“そういう人にわたしはなりたい”と書いているけれど、自分がそうなりたいから書いたんじゃなくて、人としてそういう風に生きることが出来たらと憧れを持って書いているんだそうだよ。

あの詩のなかに、“あらゆることを、良く見聞きし分かり”という言葉があるけれど、最初は“判り”だけだったんだって、だけど、後から、“良く見聞きし”と言う言葉が付け加えられたんだよ。
そういう風に、賢治の作品は、後から手直しすることが多かったんだって、だから、賢治の作品は未完のままだと言われているらしいよ。
だけど、賢治が自ら記した言葉の中に“永久の未完成はこれ完成である”という言葉があったんだって、だから、賢治の作品は全て未完のまま完成してるんだそうだよ。ね、なんか、深いでしょう…』
アイリスは、目をキラキラさせながら、そんな事を話してくれた。

そして、アイリスはこんな話も始めた。

『賢治は22歳の頃、生死を分けるような大病をして、その時に、
「自分の寿命は、あと15年あるまい」と友達に話たんだって、それ以来、わが身を省みずひたすら生き急いだんだって。
生涯を独身で過ごして、自分のことより、農民の幸せのために、人生を捧げて、
本当に、15年後37歳の生涯を終えたんだって。

おかあさん、生き急ぐって言葉は悲しいね。もしも、もっと自分を大切に自分のために生きていたら、もっと長生きできたのかしら?
でも、そうしたら、あんなに胸を打つ素晴らしい作品は生まれていなかったのかなぁ…
賢治の妹のトシは、24歳で亡くなっているんだよね。若すぎるよね…。
今のわたしとほぼ同じ年齢で死んでしまうことを考えたら、短すぎる人生だと思う、
だって、今のわたしは何も残せないもの。』そんな風に話すアイリスは目を潤ませた。

わたしは、トシが死の床で、窓の外に降り積もる雪が見たいと言って、兄の賢治に“あめゆじゅとてちて、けんじゃ”…と、頼む、“永訣の朝”の詩を思い出していた。
“あめゆじゅとてちて、けんじゃ”と言うのは、トシの臨終の言葉で、
“雨雪を取ってきてください”と賢治に頼んだ言葉だった。
賢治は、“よし、分かった、今取って来てやる、待っていろよ”…そう言って、裸足で庭に飛び出して、松の枝に積もった雪を茶碗にすくって戻ってきたが、トシの命の灯は消えてしまっていたのだった。
賢治は、トシが、自分の死後も賢治が悲しまないようにと、
“こんなさっぱりとした雪のひとわんをわたくしにたのんだのだ”と、詩の中で書いている。

わたしは、「あの詩の言葉は、本当に切ないよね」と言いながら、やはり涙ぐんでしまった。

『グスコーブドリの伝記という、物語で、イーハートーブという街が出てくるでしょう。
賢治の作品の中にもよく、このイーハートーブという街が出てくるけれど、賢治が生まれ育った花巻のことを言っているんだそうだよ。
グスコーブドリの伝記のなかで、自らが犠牲となって命と引き換えに、イーハートーブを救うのだけれど、人々の記憶の中からグスコーブドリの事は忘れ去られてしまう。と言う結末は見返りを求めずに、人々が幸せならそれでいいのだという、賢治の想いで、このグスコーブドリは、賢治自身だと言われているらしいよ。
花巻の貧しい農民のために生涯を捧げるけれど、みんなの暮らしが良くなれば、自分のことは忘れてくれて、それで良かったんだって。本当に清らかな人だったんだね。』と、アイリスが言葉を続ける

「賢治の宇宙って言葉があるわ。賢治の作品には、無限の広がりと奥行きがあるから、何度読んでも、読みきることは出来ないのだって、それが賢治の魅力でもあるんだよね。おかあさんもアイリスぐらいの頃、読んだ賢治と、今、読む賢治は違って思えるわ。あの頃、憧れていたイーハトーブって、不思議で素敵な響きのある言葉だね。」と、わたしが言うと、

『おかあさん、賢治を探す旅に出ようか?賢治のイーハトーブを見に行かない?』
少しして、アイリスがそう言った。

「いいわね。おかあさんも花巻に行って見たいとずっと昔に思っていたわ。もう、行く事もないだろうと諦めていたけれど、アイリスとなら行けるかもしれないね。おかあさんとで良ければ一緒に行こうか?」
と、答えると、アイリスは、『うん、おかあさんとがいいわ。だって、わたしの友達の中には、宮澤賢治を語れる人がいないから…』と、笑った。

「そう!嬉しいわ、ありがとう。行く時は、列車の旅がいいね!」

そんな訳で、もしかしたら、そう遠くない夏、賢治のイーハトーブを探してアイリスと一緒に銀河鉄道の旅に出るかもしれない。




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