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風立ちぬ

日々の想いを風に乗せて…

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下名栗の獅子舞デジブック 

今日、これから、法事のため長野に帰省します。
台風接近中だけど…^_^;

下名栗の獅子舞のデジブックを作りましたので、よろしかったら
下記↓URL「下名栗諏訪神社獅子舞」から、どうぞ(*^_^*)

デジブック『 下名栗諏訪神社獅子舞
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category: 里山

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小瀬戸の獅子舞 

奥多摩・奥武蔵は、獅子舞の宝庫と言われ、民間芸能の獅子舞が各地で脈々と継承され続けている。
わたしは、2006年に偶然下名栗地区の獅子舞を見て以来すっかり獅子舞に魅せられてしまった。

先日、10月17日にも飯能市小瀬戸地区の浅間神社で獅子舞の奉納があると聞き、お友達と4人で行ってみることにした。
獅子舞には、それぞれの地区の独特の雰囲気があり、どの獅子舞も同じものがない。
それぞれの風土とそこに暮らす人々が作り出す素朴な魅力にあふれている。

ここ、小瀬戸の獅子舞も、緩やかな起伏の里山と、こんもりと茂った杜に囲まれた浅間神社で長閑な村祭りがゆったりと進行していくのだった。
特に、次の世代を担う、子供たちが堂々と元気いっぱいに参加している姿が微笑ましかった。
スニーカーを履いた子供獅子も、ユニークなお面を被った子供たちも、ささらの少女たちも、ホラ貝を吹いている少年も、みなとても素直で可愛い。
また、獅子舞の進行をじっと見守るベテランの獅子舞役者さんの厳しく温かいまなざしにも心打たれた。

大らかで、素朴な獅子舞の雰囲気が少しでも伝わるだろうかと思いながら、初めてデジブックに挑戦してみました。よろしかったら、したのURLよりお入りください。

デジブック 『 小瀬戸の獅子舞 』←文字をクリック
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category: 日々の思い

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鷹渡り 

長い事、イーハトーブの旅を綴っていたので、ちょっと古い日記を…
今年も鷹渡りの季節が来た。わたしは一度だけでも鷹の渡りを見れたらと願っていた。
10月3日、午前中だけ、ぽっかりと時間が空いたので、昨年と同じ天覧山へと急いだ。

天覧山の登り口にあるお寺、能仁寺の美しいお庭にちょっと寄ってみた。

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お寺の庭に咲く彼岸花の花…毎年、決まってお彼岸の頃に咲く花なのに
今年の暑さで遅れたのか今が盛りのようだ。

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楓の葉も青々と日に透けて輝く。

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最近、全く山歩きをしていなかったので、丘のような山なのに、山頂へ着くまでにすっかり息が上がっていた。
やはり、日々鍛錬だと思う…これじゃ、山に行けるようになっても巨樹に逢いに行けないなぁ。
そんなふうに思って立ち止まれば、がんばってと言うように
シオンの花が朝陽を受けて透き通るように咲いていた。

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頂上に着くと、もう、20人以上の人たちがスタンバっていた。
昨年、初めて訪れたわたしに、親切にしてくださった方々のお顔も見える。
みなさん、毎年、鷹の渡りを楽しみに登ってこられる方たちなのだ。
1年に1度、こうして、同じ目的のために集まってくる人たち。
鷹の渡りに夢を馳せ、憧れを空に求めて、見上げる人たち。
言葉は交わさずとも、みんなの想いは同じ。
ただ、この山頂で一緒に過ごす時間がとても温かく感じるのだった。

山頂に辿り着き、「おはようございます」と、挨拶も交わす間もなく、
みんなが双眼鏡で見つめる先に鷹の姿を見つけることが出来た。
すぐ頭上を2羽の鷹が旋回していた。と思ったが一羽はカラスらしい。

「あれは、サシバですか?」「そうです!カラスとサシバですね」
「あっ、ぶつかった!」「カラスも追いすがってるね」
「おお、どんどん、上がっていくよ。」「サシバ、きれいだなぁ…」
そんな会話を聞きながら、わたしは、慌てて双眼鏡で眺めたのだった。

上がサシバ、下がカラス

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黒っぽく見えるのがカラス。すぐ上に重なるように飛んでいるのがサシバ

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たぶん、こちらがカラスだと思う。カラスも綺麗に飛ぶなぁと思った。

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こちらは、サシバ。尾が開いていないのが特徴だろうか?

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これは、偶然撮れたもの、カラスの姿が良く判る。

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やがて2羽は旋回しながら黒い二つの点になるまで上空へと昇りって行った。

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そして最後は、サシバだけになり、そのまま大空を西へと帆翔して消えた。

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わたしは近くにいた野鳥の会の方に挨拶をした。
「おはようございます。今日は渡っていますか?」
『ええ、渡ってはいるんですが、遠くを渡っていますのでなかなか見れないですね。
今みたいに頭上を通ってくれると良いんですがね。』
「わたしは、登ってきて早々にサシバとカラスのバトルが見れてラッキーでしたね。」
『ああ、ご覧になれましたか?それは良かったですね。今年はあまり真上を飛ばないんですよ。』
そう言って、その人は過去12年間の記録だと言って、びっしりと時間や鷹の渡った数を記録したノートを開いた。

そんな事をポツリポツリと話したり、常連の方たちが話し合う声などを聞きながら和やかに空を眺める。
雨続きだったから、鷹も飛ぶ日を迷っているのかも…
今日は久々の上天気、晴れればまだ夏のように暑いが、上空は秋と夏のいきあいの空だ。

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見上げる空は、青く澄んで雲が綺麗だった。

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頂上の杉の木の梢をちらちらと、蝶が舞っている。
すると、『ああ、ナミアゲハだね。』と、そんな声が上がる。
こうして、鷹を待ちながら、自然の営みが目に飛び込んでくる。なんか、いいなぁ…

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わたしは、2羽の蝶が楽しそうに仲良く飛ぶ様を微笑ましく思いながらシャッターを押す。
『今年もアカホシゴマダラの幼虫がたくさんいますね。』
『だんだんと増えてしまって困ったものだね。』
そんな会話も聞かれた。教えてもらって、去年と同じエノキの葉を見ると、オオムラサキにそっくりな小さな角を持つ、緑色の幼虫が盛んに葉を食べていた。可愛い顔をしているんだけれど、大陸生まれのこの蝶の幼虫は繁殖力が強くて、同じ食草のオオムラサキなどの蝶を脅かしているのだとか、
こういう小さな自然の営みに気づける人たちって良いなぁと思う。

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遠くを渡る鷹の姿をいくつか眺めているうちに、すぐ上の空に一羽の鷹が現れた。
『あ、ノスリですね。羽の先が黒いのが良く判るでしょう?』
「本当ですね。翼の白い模様も見えますね。」

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『こうして、一周で、約500m高度を上げるそうですよ。上昇気流に乗って、十分な高さまで
高度を上げると偏西風に乗って目的の方角に滑空して行くんです。
上昇気流は陸地でないと起きません。だから、鷹は島沿いに海を渡って行くんですよ。』
そんなふうに教えていただいた。

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「ノスリって冬でも見かけますが、渡るものと渡らないものがいるのですか?」
『ノスリも渡りますよ。場所を移動して南下すると言った方が正しいかもしれませんね。』

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『サシバは、春に渡ってきて日本で営巣して子育てをし、秋に家族で渡って行く。
本来なら個体数は増えているわけですが、毎年、数はほとんど変わっていないと言われています。
自然淘汰されているわけです。それほど、サシバの生きていく環境は厳しいものなんでしょうね。』
穏やかに話してくださるその人の言葉に耳を傾けているうちにノスリはどんどんと高度を上げていった。

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そして、点のように小さくなって、西へと渡って行った。
わたしは、こんな風に空を見上げていられる事がなんだか無性に嬉しかった。

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今年は、昨年のようにたくさんの鷹が鷹柱を作り、帆翔していく姿は見られなかったが、
たとえ一羽でも、渡りが見られて嬉しかった。何だか心が大きく解き放たれたような気持ちになれた。
無事に渡って行ってほしいと思う。そして、また帰ってきてほしい。

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秋空にのんびりとトンボも翅を休めている山頂を、もう一度見渡した。
もっと見ていたかったけれど、みなさんにお礼を言って山を降りた。

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帰り道、一枝だけ、かすかに色づいた楓の葉が陽に透けて輝いていた。
鷹が渡ると、秋も本番になるんだなと思った。

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category: 森・山

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イーハトーブの旅(最終章) 

いつまでも、風を感じて川岸を歩いていたい…
そう、思えるイギリス海岸に心を残しつつ、わたしたちは北上川沿いに続く国道を走りだした。
行きかう車もそれほどない道を快適に走り続ける。相変わらず広大な田園風景が続く道だ。

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片側は、こんな風景の中を釜石線の鉄路が続く。電車が来ないかなぁと思ったがとうとう見れなかった。

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稲刈り前の田んぼの畦で、おじさんたちが話ている。長閑な朝の風景の中を走り抜ける。

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金色の田んぼの中に、こんもりした森があり、小さな神社があった。
狛犬が、ひっそりと稲穂を見つめ佇んでいる。
立ち止まって、写真を撮りたい風景が現れる度、「アイリス、ちょっとだけいい?」なんて前を行くアイリスに叫んでは、自転車を止めてシャッターを押す。慌ててるから当然写真は良い写真はない。

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わたしたちは、『きつい~!!』なんて言いながら、大きな上り坂を喘ぎながら頑張って登った。こんな時、ママチャリは重い…マイ自転車で、軽快に走れたらなぁ…なんて思ったりした。

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30分ほど走り、ようやく道は北上川を渡る大きな橋に差し掛かった。
川幅が尋常じゃなく広い北上川を渡るので、橋はかなり長い…
歩道は、車道より一段高くなっていて、1mほどの幅しかない。片側は車道を走り抜ける車、片側は高さ1メートルほどの欄干を挟んで川上川…
自転車に乗って走っていると、欄干は無いに等しい。フラッとしたらそのまま川に落ちそうだ。
アイリスは、頑張って走り続けている。ちょうど橋の真ん中に行きついたあたりで、わたしはギブアップ。
自転車を止めた。わたしが降りるとアイリスも自転車を止めた。
「ちょっと、怖いから押して行こうよ!」『うん、わたしも、もうダメと思ってた!』
車の音にかき消されそうだから、大きな声で叫ぶように言って、お互いに笑ってしまった。

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止まったら、すぐ、写真を撮るわたし、アイリスもカメラを構えた。
『うわ~!くらくらする~!』「ほんと、目まいがしそう!」
北上川の流れは、絶え間なく波を抱いてとうとうと流れ、対岸の岸辺に続く林は美しかった。

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月見草咲く土手から眺める田園風景。
田舎の景色に、レモン色の月見草は、とても良く似合うと思う。
ちょうど、主人の田舎を訪れた時、こんな写真を撮った事があったなぁと思いだしたりした。
主人の田舎は安曇野だけれど、ここほど広大ではないけれど良く似ているのだった。

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やがて、田園地帯を抜け、新花巻の駅近くの踏切を渡り、山へと向かっていく。
童話館、イーハトーブ館、賢治記念館、賢治ゆかりの記念館が広い森や丘の上に点在している。距離が離れている上に、一つのテーマパークだけでも大きいので、短時間で全部回るにはかなり忙しいのだった。
そして、小高い丘の上にあるので、緩やかだけど長い上り坂でかなりキツイ。
わたしたちは何台もの車に追い越されながら必死で登った。
まず、ここまで自転車で来ているのはわたしたちぐらいのものだった(笑)

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最初の童話館に着き、駐車場の片隅に自転車を止めて歩き出す。
アイリスは時計を眺めながら『今、11時だね。イギリス海岸で30分ほど過ごしたか
ら、ここまで花巻から1時間ちょっとかかってるね。帰りはここを13時には出発しないとね。
だいたい1館の見学時間は30分ぐらいと言うことで。』
「了解、お昼は、花巻の駅に着いてからが良いね。でも、もし、無理そうなら全部回らなくても良いよ。また、いつか来た時に回ればいいんだから。」
わたしたちは、そんな会話を交わしながら、童話村のゲートをくぐった。

まず迎えてくれたのが、賢治の童話から飛び出したような、電信柱の兵隊が現われた。

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ヤマナシの石碑も。こんな可愛いブロンズ像も、まだまだ、森の中の小道にはたくさんの童話の主人公たちが潜んでいそうだけれど、わたしたちは童話館を目指した。

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森の入口には、一本だけ美しく紅葉した楓の木があった。
秋の緋色に、わたしはほんのしばらく心を奪われた。ひそやかに秋は歌っているんだ…

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広々とした緑の芝生の中にある真っ白い円筒形の建物の前に、特徴のあるアーチが続いている。
数人の人々が、ゆっくりとした足取りでそのアーチの下を歩いていく。
遠くからその光景を見たアイリスが、『サザンクロスに向かって歩いていく人たちの列のようだね。』と、つぶやいた。
少し腰の曲ったおじいさん、お母さんに手を引かれた子ども、振り向きながら進むお父さん、若者たち…わたしも、アイリスが思い描いている光景が手に取るように分かる気がして、頷いた。

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アイリスもまた、そのアーチの道をゆっくりと歩き出した。
やはり、銀河鉄道をイメージしているのだろう、アーチの両脇の地面には黒い石の上に銀色のボールが散りばめられ、星座の形が描かれていた。

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芝生のオブジェも素敵!

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童話館に入って最初のホールは、真っ白な部屋だった。メルヘンチックな白い椅子が置かれ、人々は思い思いにその椅子に座ってみたりしていた。
壁には白いコートと白い旅行カバン…照明の柔らかさが、なんともいえない雰囲気を醸し出していた。

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次のホールは宇宙をイメージした部屋で、天井には無数の電飾で飾られた星座が瞬き、
床と壁に張り巡らした鏡に映りこんで、さながら夜空の空間を浮遊しているような感覚になる。
ファンタジックでとっても美しく、わたしたちはうっとりとしながら通り抜けた。

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次のホールは、水底の青を表現した部屋。回り灯篭の中を時折り、真っ赤なカニの姿が現われては消えた。
ゆらゆらとした水底をカニの親子が歩いていく、ヤマナシのお話を連想する部屋だった。

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その後、いくつもの童話の場面から作ったジオラマや作品のパネルなどを見てから外へ出た。
芝生の丘に何棟かのログハウスが立っていて、それぞれ、鳥、動物、森、花、虫などに分かれ展示されていた。
“賢治の学校”と、名付けられ楽しく学習できるようになっている。
時間があればもっとゆっくり回りたいが、駆け足で次のイーハトーブ館へと移動する。

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イーハトーブ館は、水を湛えた建物が美しかった。
今日は曇り空だけれど晴れていたら青空を映して素敵だと思う。

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宮沢賢治に関するさまざまなジャンルの芸術作品、研究論文を数多く収集し一般に公開しているのだという。

賢治の童話を題材にしたブロンズ像が多数展示されていた。

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イーハトーブ館の敷地には、賢治が残した設計図から作った日時計と花壇がある。
賢治はそれぞれの花の特徴を考慮した花壇の設計図も多数残しているそうで、その才能の多彩さにも驚かされる。

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そして、この花壇のある斜面を登り上げると丘の上に“宮沢賢治記念館”があるのだ。
わたしたちは、息を切らしながら斜面を登り上げた。

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“宮沢賢治記念館”には自筆の原稿や、楽譜、書簡、愛用のチェロ、レコードなどが多数展示されていた。
アイリスは“永訣の朝”の詩の前で長いこと立ち止まっていた。
賢治の妹のトシが亡くなった朝のことを書いた詩で、岩手弁で書かれた言葉がなおさら、深い悲しみを語っている。トシが最後の時に、賢治に、庭の松の枝に積もった雪を取ってきて欲しいと頼む、
「あめゆき とてちて けんじゃ」の言葉は哀しくも健気で美しい。


トシは賢治の最高の理解者であったのだという。
トシが愛用していたと言うバイオリンを見つめながらアイリスはポツンとつぶやいた。
『トシが亡くなったのは26歳、今のわたしと同じ年、短すぎる生涯だよね。
賢治さんの悲しみがとってもよく分かるよ。わたし、今回の旅で、トシさんにも逢いたかったんだ…』

「そうだったの…今日ここに来て、トシさんに逢えてよかったね。」
『おかあさん、賢治さんは、28歳の時農学校の教師を辞めて、新しい道を歩き始めているでしょう。きっと、トシさんの分も一生懸命に生きようと思ったんじゃないかしら?
わたしも、諦めないで自分のやりたいことを始めたいって思ったんだ。まだ、遅くないよね。』

わたしは、「もちろんよ!まだ全然遅くないよ。自分のやりたいことに気付いたら、
それを始めるのに遅いなんてこと無いんだよ。」と、言いながら、娘の透明に澄んだ感受性を羨ましく思った。
そして、人生を重ねて曇ったわたしの心を払拭してくれるような娘の感性に出逢えたこの旅は、何にも変えがたい時間だったと改めて思えた。

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賢治さんが好きだった新世界交響曲や田園や賢治さんが作曲した星巡りの歌などが、
静かに流れる館内で、時間の許す限り、わたしたちは思い思いに過ごした。
ふと、周りを眺めると、見学者の中の何人もの人たちが、わたしたちと同じように、
一つ一つの作品や展示物の前でじっと立ち止まり、見つめ、耳を澄ましている姿が見られた。
みんな、きっと賢治さんを好きな人たちなんだと思えて、ちょうど羅須地人協会ですれ違った人と同じように親近感を感じたのだった。

『もっとゆっくり見たいけれど、そろそろ行こうか?』
「そうだね。その前に、あの景色を見て行かない?」わたしたちは、賢治記念館の外れにある展望台に立った。
ちょうど、わたしたちが自転車で走ってきた風景が手に取るように眺められた。
『うわ~!あの道を走ってきたんだね。あの橋も見えたよね!』
「うん、よく走ったよね!また、これから、あの風景の中を走り抜けるよ!」
『素敵!よく目に焼き付けておかなくちゃぁ…』
これで、この旅も終わってしまう…そう、思ったけれど、ふたりともその事は口にしなかった。

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わたしたちは、また、あの長閑な田園風景の中を走り抜けた。
『稲穂の田んぼも良いけれど、稲刈りが終わった後の田んぼも良いね~♪』とアイリスが言う。
「本当だね…」と頷きながら、わたしはカメラを向ける。

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「ねぇ、アイリス、この田園風景の中で、あの田んぼのあぜ道にでも腰を下ろして賢治さんの物語を、ひとつ読み上げてみたいね。」
『うん、どこかに書いてあったよね。賢治さんが好きだった田園を聞きながら、
この物語が生まれた風土の中で物語を読めば、賢治さんの声が聞こえてくるって』
「そうそう、その言葉が分かるような気がしたよ。今…」
『今度来た時には、きっとそうしようよ!』

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この橋を、よく自転車で途中まで渡ったよね。なんて、笑いあいながら川上川を渡りきった時、
『来た時とは違う道で帰るけれどいい?たぶん、帰れる自信があるから。』とアイリスが提案した。
わたしは、アイリスに任せることにした。
アイリスは来た道とは違う、田んぼの中の農道を巡るように道を選んでいく、
大きな屋敷林のある農家の庭先で、脱穀作業をしているところに出逢ったり、
家族総出で稲穂をはさ掛けに掛けている脇を走り抜けたり、ホームだけの無人駅を通り過ぎたり、
時間がないから写真には撮れなかったけれど、車窓を流れる風景のように移り変わる素敵な風景を胸に焼き付けた。

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ふと、見慣れない風景にわたしは自転車を止めた。アイリスも気になったらしい。
神社の前に大きな石が何個も並べられているのだった。
数枚写してすぐに行こうとしたのだが、写真を撮っているわたしの姿を見つけて、おじさんが出てきた。
『この神社を写真に撮ってる人を始めて見たよ』
聞けば、この石は、山に登る度に記念に建てるのだという。
『よく見てごらん、山の名前が彫られているだろう。』なるほど、早池峰山、鳥海山、月山、岩木山などの名
前が読めた。
わたしたちは感心しながらもおじさんの話が長いので、だんだんと時間が気がかりになった。
やっとのことで話を切り上げおじさんにお礼を言うと、『また、いつか花巻においで』
と見送ってくれた。やさしいおじさんだった。

こうして、わたしたちは予定通り花巻に着き、自転車を返しに行ったが、また、店番のおばさんがいない。
この時も他のお客さんが、家の中に入って見つけてきてくれた。

『いったい、あのおばあちゃんは、家の中のどこにいたんだろうね。』
「それにしても、最後まで、スリリングだったね。」なんて、アイリスと話しながら、駅前で昼食を済まし釜石線に乗り込んで新花巻へと向かった。
車窓には、今しがた走ってきた風景がのんびりと広がっていた。

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『ああ、終わってしまったね…』「いよいよ、岩手とお別れだね。」
新幹線のプラットホームで電車を待ちながら、終わっていく時間が名残惜しくて、わたしたちは涙ぐんでしまった。
寂しさと同時に、わたしたちの胸には溢れるほどの思い出と満足感で満たされていった。
これほどの素敵な旅は、もう2度と出逢えないかも知れないけれど、しあわせだった。
「アイリス、ありがとう…」今回ほど、娘を頼もしいと思ったことはなかった。

そして、旅を終えて時間が経つごとに思い出されるのは、新花巻駅の案内所の女性だったり、
ご飯粒をいっぱい付けて現われた貸し自転車屋のおばあちゃんだったり、
稲荷神社の前で話し込んだおじさんだったりするのだった。

きっと遠い将来、いつの日か、アイリスもこの日の記憶を懐かしく暖かく思い出すのに違いないと思った。

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イーハトーブの旅、美しい旅でした…
これで、わたしのお話は終わりです。
長い長い、旅行記を最後までお付き合いいただいた方、ありがとうございました。

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イーハトーブの旅(イギリス海岸へ) 

今日は2日目にして旅の最終日、夜行発1泊2日の旅はあっという間だ。
そして、午後3時50分には新幹線に乗り、この旅は終わってしまう。
盛岡から遠野、そして花巻へ、昨日も一日目いっぱい動いた。
今日もまた、花巻から新花巻界隈を自転車で走り抜ける予定だ。
わたしたちは、始発のシャトルバスに乗るべく、早朝から支度を始めた。
昨夜の雨は上がり、ホテルを出発するころは、朝靄が立ち込めていた。

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花巻の駅には8時半についた。いくつかのお土産物屋さんと食堂がある小さな駅だ。
わたしたちは、まず、駅のコインロッカーにボストンバックを預け、身軽になってレンタサイクルのお店を探した。
本当は新幹線の駅でもある新花巻駅にレンタサイクルがあれば良かったのだが無いので、ここ花巻の駅で借りて新花巻界隈を回り、もう一度自転車を返しに来て、電車でまた新花巻駅へと向かうという、ややこしい時間ロスの道順をとらなければならない。
それでも、昨夜わたしたちは地図を眺めながら、なるべく効率よく回れるよう知恵を絞った結果だった(笑)
静かな駅の構内や街の中には賢治ゆかりのグッツがあって、なかなか楽しい。そんなものを見ながらレンタサイクル屋さんを探した。

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レンタサイクル屋さんと言ってもパン屋さんが間借りでやっているもので、古びた数台のママチャリがあるだけだった。わたしたちがドアを開けてお店の中に入って行くと、地元の方らしい、おばあちゃんが食パンをぶら下げて立っていた。「おはようございます。」と挨拶をすると、おばあちゃんは、『今、お店の人がいないから、わたしもパンを買って帰れないでいるのよ。さっきから呼んでいるんだけど出て来ないのよね。』と言う。
そして、『ちょっと待っててくださいね。中に入って呼んでくるから。』と言いながら家の中へ入って行ってしまった。家の中をくまなく探したのか、しばらくたってやっとお店のおばあちゃんが出てきた。
このおばあちゃんが、またユニークで話し好き、わたしたちはやっとのことで、錆びてかなりボロボロの自転車を借りることができた。
『この自転車、大丈夫かな?』とアイリスが苦笑いした。わたしたちはブレーキを調べてみて大丈夫そうなので出発することにして古いお店が立ち並ぶ花巻の町を走り抜けた。

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まず最初に目指すのは、賢治が“イギリス辺りの海岸を歩いているようだ”と言って名付けたというイギリス海岸へ行ってみることにした。
自然と地図を片手に持ったアイリスが先を行く。昨日もそうだが今日もアイリスが主導だ。
アイリスが小学生の頃から、よく山へ連れて行ったがいつもわたしの後を着いて来ていた。
それが、いつの間にかこうしてわたしを導いてくれているようになった。
わたしは、颯爽と前を行く娘の後ろ姿を頼もしく思ったのだった。
駅からの坂道を走り抜け“賢治さんの心象の小径”という、川岸の道を行く。

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アイリスが小さな木の橋に差し掛かると、アオサギがゆっくりと頭上を羽ばたきながら飛び去って行った。
『おかあさん、すごい!アオサギが頭のすぐ上を飛んで行ったわ!川にいたのね!』と、アイリスが叫んでいる。
「きっと、魚を捕っていたのよ。小魚がたくさんいるのが見えるよ。きっと、カワセミもいるかも知れないね。」

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アイリスは、自転車を止め橋の欄干から身を乗り出して川の中を見つめた。
『あっ!本当!たくさんの小魚の群れがいる。時々、お腹が銀色に光るわ!』
きっと、アイリスも賢治の童話“山梨”のカワセミが魚を捕るシーンを美しく書きあげた一説を思い出しているに違いない。
嬉しそうな娘の声を聞いて、わたしもうれしくなるのだった。

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やがて行く手に、イギリス海岸の看板が見える。イギリス海岸…なんともロマンを掻き立てる響きだろう。
賢治は造語の天才だと思う。イーハトーブと言うのも生まれ故郷の岩手からイ…ハ…テ…を文字って付けたもの。
賢治は故郷を愛し、今生きているこの世界をドリームランドにしたかったそうだ。
ユートピア(理想郷)ではなくてドリームランド、理想郷は手の届かない架空のものだからだ。

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小高い草の土手を登りあげ大きな柳の木の下を通り抜けるとイギリス海岸に出た。
北上川西岸の100万年前の泥炭層の川床で広い川幅のところどころにレンガ色の岩のような川床が出ていたそうだ。
賢治はここで、クルミの化石や偶蹄類(ぐうているい)の足跡化石なども採集したといわれている。
現在はダム整備などで通常は泥炭層は水面下になってしまったそうだ。
『数日の雨で、尚更、水かさが増えて、今日は川床の岩が全く見えなくなってしまっていますが、通常はもう少し見えているのです。今、資料を土手に展示してきましたので、良かったらご覧ください。』と、ボランティアの方が教えてくださった。

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川幅の広い美しい北上川が緩やかに蛇行していく。
『あの、川が曲がって流れていく辺りに賢治さんの生家があったんだね。』
説明書きを読みながら、アイリスが遠くの田園を指差した。
「この川で遊んで育ったんだろうね。そして、大人になってからもこの風景を愛したんだろうね。」

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“賢治が19歳の頃、このイギリス海岸付近をを軽便鉄道が走っていました。
それが銀河鉄道になったと言われています。
イギリス海岸を銀河ステーションとして、ここから天の川に登って、ジョパンニとカンパネルラの銀河の旅が始まったのです。”
そんなふうに書かれた看板。

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わたしは、さらに、ケンタウルスのお祭りの夜、ジョパンニが、眠ってしまった野原はこの土手で、目覚めると降るような星空と天の川が空いっぱいに広がっていたのだろうなと想像した。
ザネリが川に落ちてそれを助けるためにカムパネルラが川に飛び込み助けた後帰らぬ人になってしまった川、
ケンタウルス祭の烏瓜の灯りを子供たちが流しに行った川、
下流の方は川幅一ぱい銀河が大きく写ってまるで水のないそのままの空のように見えた川、
それが、きっとこの川なのだと思った。

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賢治の銀河鉄道の物語が、一枚一枚のパネルになって草の土手に並べられていた。
一枚一枚読みながら、歩いていく。北上川から吹いてくる風が心地よくわたしたちの心をそっと撫ぜて、なぜか胸の奥が優しさに満たされていくような気がした。

きっと、賢治さんも、この川のほとりを歩きながら数数の物語が生まれたのではないかしら
川岸では桜並木や賢治さんが好きだった柳の木々が風に揺れ、彼方には黄金色の田園風景が広がっていた。
故郷の川、北上川は岩手の中央を流れ、やがて太平洋へと注いでいる。
賢治さんの心のなかの原風景を、いま、わたしたちも歩いているんだと思った。

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 ジョバンニは、白鳥と書いてある停車場のしるしの、すぐ北を指しました。
「そうだ。おや、あの河原は月夜だろうか。」
 そっちを見ますと、青白く光る銀河の岸に、銀いろの空のすすきが、もうまるでいちめん、風にさらさらさらさら、ゆられてうごいて、波を立てているのでした。

ごとごとごとごと、その小さなきれいな汽車は、そらのすすきの風にひるがえる中を、天の川の水や、三角点の青じろい微光(びこう)の中を、どこまでもどこまでもと、走って行くのでした。
「ああ、りんどうの花が咲いている。もうすっかり秋だねえ。」カムパネルラが、窓の外を指さして云いました。
 線路のへりになったみじかい芝草(しばくさ)の中に、月長石ででも刻(きざ)まれたような、すばらしい紫のりんどうの花が咲いていました。


銀河鉄道の中で、わたしは、この一説がとても好きだった。
白鳥座のステーションのパネルに、一頭の蝶が止まっていた。
その翅は疲れて見る影もなくボロボロに痛んでいたけれど、良く見るとクロヒカゲだった。
黒褐色の翅に青い小さな星を散りばめたような丸がある。
『英名はレテ ダイアナ(月の女神)というのだよ、素敵な名前だろう?』そう、あなたは教えてくれた。
わたしが初めて名前を知った蝶だった。
命を全うして、もうじき逝くのだろうか…じっと動かないその蝶に、想いは巡っていた。

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そのパネルの最後の所に、木の根を利用して作られたテーブルとイスが置かれていた。
テーブルの上には手作りの記帳が置かれ、訪れた人が自由に書き込めるようになっていた。

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拝啓 宮沢賢治様

開かれたページにはこう書かれ、賢治の写真がプリントされているのだった。

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賢治さんが好きだったという、フクロウもコスモスの花に埋もれていた。

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まだピカピカの翅を持つナミアゲハ

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可憐なコスモスの花も咲き始めていた。

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咲き残った桔梗の青紫って、物悲しくも美しい…

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わたしたちは、丘の上の柳の木の下に止めておいた自転車に乗って、また走りだした。
これから新花巻の駅を越えた丘陵地帯に建つ、童話村、イーハートーブ館、宮沢賢治記念館を巡る予定だ。
(続く)

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イーハトーブの旅(渡り温泉の夜) 

新花巻の駅に着く、手前でお祭りのために道路規制がされていた。
すぐ目の前を山車を引きながら町の人々が通り過ぎた。
この時は、新花巻の駅に着くことばかり考えていたので、お祭りを観る余裕がなかっ
たが後で、このお祭りが花巻祭りだと気付いた。
もしかしたら鹿踊りの実演がどこかで見ることができたのかも知れない。そう思うと少し残念な気がした。

何とか滑り込みで新花巻の駅に到着し、無事レンタカーを返してホッとしたのも束の間、これから列車で2駅先にある花巻の駅に行き、5時初のシャトルバスに乗らなければならない。
わたしたちは、駅の案内所へと向かった。
カウンターにいた女性に「次の列車は何時ですか?」と、尋ねる。
すると女性は目を丸くして、『え~!?大変、電車は今出てしまったばかりよ。次は
1時間後になりますよ。』と言うのだった。
仕方が無い、タクシーで行こうかと考えて、「わたしたち、渡り温泉に行くんですが…」と言いかけて、カウンターに貼られた、シャトルバスの時刻表が目に留まった。
「あら?新花巻の駅からもシャトルバスが出ているんですか?」と尋ねると、女性は、『ああ、良かった!渡り温泉に行くんですか。なら、大丈夫、ここからシャトルバスに乗れますよ。あと、20分ぐらいで来ますからこの辺でお待ちくださいね。本当に良かったわ~!』と、胸を撫で下ろすのだった。

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その仕草が、とっても大げさで、でも、とっても可愛くて、とても好意的で温かかった。
見知らぬ旅人のわたしたちをまるで身内の者のように親身になって心配してくれているのだ。
東京では、こうは行かないだろうなと思った。きっと事務的に案内してくれて終わりだろう。わたしたちは、その女性の一つ一つの仕草や、言葉のお国訛りの温かさに思わず笑顔になるのだった。
『あのね、バスの乗り場はね。ちょっと、こちらへお越しください。』そう言って
女性はわたしたちを窓際へと案内してくれ、身振り手振りで、駅前のバス停の奥を指差した。
『時間が来たら、あの辺りでお待ちください。そしたら、旅館のバスが来ますから。』
ジーンと来るほどの、温かさと優しさに、わたしたちは心からお礼を言って頭を下げた。

バスを待つ時間、わたしは、駅に貼られた鹿踊りのポスターをじっと眺めていた。
ひょうひょうとした草原に三人の踊り手が、太鼓を打ち鳴らしながら踊っているポスター。
わたしは、すぐに、地元の下名栗の獅子舞のことを思い出してとても良く似ていると思った。
鹿踊りはまだ、見たことが無いが踊り手が歌いながら踊るのだと言う。
とても勇壮な舞いだと聞くが、何故かほのぼのと温かみのある舞いなのではないかと思えた。
今日出逢った花巻農学校の生徒たちの姿が浮かんだせいもある。
そして、遠い昔に賢治が見つめた鹿踊りが目に浮かぶのだった。

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やがて時間になった、わたしたちは、先ほどの案内の女性に挨拶しようとカウンターを振り返ったがそこには違う女性が座っていた。
『いつのまにか、さっきの人、違う人と交代してしまったんだね。いい人だったね…』とアイリスがしみじみ言った。
「うん、旅は、人だね…」と、わたしも答えて駅の待合室を通り抜けながら、ふと、人々の会話が耳元を通り過ぎていくのを感じた。
そして、啄木が、
“ふるさとの訛り なつかし停車場の 人ごみの中にそを聞きに行く”と、詠んだ歌を思い出していたのだった。

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渡り温泉は、花巻の町からさらに奥の山の中にある。
車窓には昼間アイリスと駆け抜けた景色が夜の帳に包まれながら流れていった。
『おかあさん、見覚えがある景色だね!昼間走った道と同じ道を走っているよ!』
「本当に、今日は良く走ったものね。アイリス、お疲れ様。ホテルに着いたらまず、温泉に入ろうね。」
ホテルは従業員のサービスも良くとても綺麗で、温泉も食事も素晴らしくて言うことは無かった。

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ホテルについてすぐにロビーで抹茶のもてなしを受けた。
浴衣の上にはおる羽織も好みの柄を選ぶことが出来た。こんなところが女性に人気があるのかも知れない。
夕食は雰囲気のあるレストランに案内された。『とても良いお席にご案内できます。』そう言われて通されたテーブルは吹き抜けの総ガラス張りの窓際の席だった。
わたしたちはライトアップされた日本庭園を眺めながら、乾杯した。

ゆっくりと出される料理に舌鼓を打ちながら今日の出来事を話したりする。
BGMは、ピアノの生演奏。庭園に植えられた桂の木や楓の木が、まるで紅葉しているように美しくライトアップされていた。
『あっ!おかあさん、今、鯉が跳ねたよ!』とか、
「アイリス、あの木はカツラの樹だよ。日原のカツラを思い出すなぁ…」とか。
『お料理、おいしいね。お父さんにも食べさせてあげたいね』
「うん、おにいちゃんやおねえちゃんにもね。いつか、家族で来れたら良いね。」とか。

最後に、デザートとコーヒーが運ばれてきた時、ピアノがハッピーバースデー♪の曲を奏でだした。
見ると、一組のカップルの女性にローソクのついたケーキが運ばれていた。
スタッフの贈るにこやかな笑顔に周りの席から静かな拍手が送られた。
『お誕生日の演出なんだね。便乗で悪いけど、おかあさん、お誕生日おめでとう。』
とアイリスが言ってくれた。「うん、ありがとう、最高の誕生日だったよ。」

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宿に着いた時から降り始めた雨は、本降りになっているようだった。
わたしたちは、ちょっぴり窓を開けベランダに出てみた。
今夜は月も星も見えないけれど、しっとりと雨の森の匂いがした。

ふかふかのお布団に潜り込んで、『今夜はぐっすり眠れそうだね!』とアイリスが笑った。
「おやすみ、アイリス。ゆっくり寝てね」こうして、わたしたちの旅の、長い一日が終わったのだった。
(明日はいよいよ、花巻を自転車で横断します。よろしかったらどうぞ)(続く)

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イーハトーブの旅(遠野編) 

遠野までは、約1時間の道程だった。わたしたちが出発したのは午後1時を回っていた。
レンタカーは午後4時に花巻駅に返さなければならない。
途中、給油する事を考えると午後3時までには遠野を出発しなければならなかった。
そう考えると、見学時間は1時間も無いことになる。
アイリスと相談したが、やはり、行くだけ行ってみようと言う事になった。

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「とんぼ返りになりそうだけど、運転は大丈夫?疲れるようなら花巻でゆっくりお昼
を食べて散策するのも良いと思うよ。」と、わたしは心配したが、アイリスの決心は固かった。
『時間が無くて、すぐ帰るようかもしれないけれど、せっかくここまで来たんだから計画通り遠野の町を見てみようよ。運転は大丈夫、そんなに疲れていないから…』

「お腹が空いたけど、このまま遠野に向かったほうが良さそうだね。途中のコンビニでおにぎりでも買って食べよう。今夜はご馳走だから、お昼は抑えておかないとね!」

『うん、今夜の食事は期待できそうだものね!楽しみ~♪』
わたしたちは、こんな事を話し笑い合いながら、美しい金色の道を快適に走りだした。

時間がないと言いながら、わたしたちは何故か高速道路を使わず迷わず一般道を走っているのだった。
幅の広い真っ直ぐな道がどこまでも続き、道路の両サイドは、豊かな実りの金色の田んぼが遙か遠くまで見渡す限りに続いていた。
緩やかな起伏を繰り返し、所々に林や森を散りばめて、どこまでも果てしなく続くのだった。

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「すごくいいね!この道。まるで北海道の道のようじゃない?」
わたしは、随分前に行った家族旅行での富良野あたりの丘を走る道を思い出していた。
あの時は田んぼではなくて畑や牧草地の風景で、枯れ色の草原に干草のロールが転がっていたりした。
ここも、緩やかな起伏が丘のように見える。
見渡しのいい田園風景は美しすぎて心を奪われた。

写真に撮りたいと思う場所がたくさんあったが、急ぐ旅だから、一生懸命にハンドルを握るアイリスに、車を止めて欲しいとは言えなかった。
そんなわたしの心を察したのだろうか、『お母さん、車を止めてあげれなくて、ごめんね。心のシャッターにしっぁり焼き付けておいてね。』と、アイリスは言うのだった。

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「そうだね~♪忘れないように目に焼き付けておくよ。賢治さんの家も盛岡も…今日、こうしてアイリスと旅したことは、どんな事があっても絶対に、忘れないよ。」
そう答えながら、わたしの心は、車を抜け出して、あの丘の上に立って眺めていたり、黄金色の稲穂の海の中を歩いているような気がした。

『おかあさん、まるでナウシカの世界だね。あの金色の野原を思い出すわ…』とアイリスがつぶやいた。
「ああ、あのオウムの子どもを放しに行く場面ね…」
すると、たちまち、あどけない子どもの歌声と、柔らかな光と風が降り注いだような気がした。
アイリスの感性は、時々、とても新鮮な光と風をわたしの心に吹き込んでくれるのだった。

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『それにしても、全然車が走っていないよ。』
「本当に、家も全然ないし、道、間違っていないよね?」
『うん、一本道だしね。カーナビもあってるし…』
「みんな、高速を利用するのかもね」
どういうわけか、遠野へ着くまで、まるっきり車に出逢わなかった。
わたしたちの後にも先にも一台の車も無い。わたしたちは美しい景色の中を遠野まで走り抜けたのだった。

やがて、田んぼの中を走る線路を見るようになり、長閑な佇まいの里山が広がり始めた。
今回、時間の関係でレンタカーの旅になってしまったが、こんな長閑な風景の中をのんびりと列車で行く旅も情緒があるだろうと思った。
「次に来る時は、絶対、列車の旅をしようね。遠野から、さらに釜石まで列車で行って海辺の景色を見るのも素敵だと思うわ」
『うん、いいね!おいしいものも食べれそうだね!』そんな事を話しながら遠野の駅前を走り抜けるとようやく車が行きかい、観光客の姿も見かけるようになった。

車窓の街並みも、どこか懐かしくて長閑で、昔からの変わらないノスタルジーが流れているような気がした。
わたしたちが見慣れている関東近辺の里山とはどこか雰囲気が違い民話のふるさとと言う言葉が頷けるのだった。
上手く表現できないけれど、きっと、この素朴さが東北の魅力なのだろうと思う。

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ようやく伝承園に辿り着くと、ここばかりは観光客が溢れていて、駐車場も空き待ち状態だった。
なんとか車を止め伝承園の中に入ったのは2時30分を回っていた。
『遅くても3時にはここを出発しないとね。ごめんね。急いで見るようになってしまって…』と、アイリスはすまなそうな顔をする。
「ううん、そんなこと無いよ。ここまで来る道程が素晴らしかったし、遠野の町は、本当に長閑で民話のふるさとって言う感じが良く分かったよ。この感覚はやっぱり、来て見なければ分からないもの、来て良かったわ。
それより、運転ご苦労様だったね。帰りはお母さんに任せて!って言えたらいいんだけれどね。アイリスに頼りっきりでごめんね。』

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伝承園の中には、曲がり屋作りの農家など、いくつかの茅葺屋根の建物があり、その中では村のお年寄りが昔話の語り部となる“昔話ライブ”というのも行われていた。
障子越しに人々の真剣な眼差しや、語り部の柔らかなお国言葉が漏れてきて、時間があったら聴いてみたいと思うのだった。
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あまりにも急いだから伝承園のコスモスが美しかった事ぐらいしか覚えていない。
ゆっくり回ればいろいろな発見があっただろうと思う。

わたしたちは、帰り道に河童淵にも寄ってみた。

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そこは、国道沿いに見ると、なんでもない川のように見えたけれど、田んぼを潤しながら曲がりながら続いていて、川沿いに歩いたら、何か発見がありそうな長閑な景色が広がっていた。
ずっと、歩いていきたい衝動に駆られたけれど、断ち切って、わたしたちはまた、あの美しい田園風景の中を戻って行った。

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『遠野はいっぱい見るところがありそうだね。今度来る時には、一泊してゆっくり見て歩きたいね。』
「うん、やっぱり、あちこち行きたいから、今度は自転車を借りて回るのも良さそうだね」
わたしたちは、そんなことを話しながら、雲の切れ間から差し込む夕映えの光に輝く稲穂を眺めながら花巻へと向かったのだった。(続く)

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イーハトーブの旅(羅須地人協会の出逢い) 

また、素敵な金色の海の中を、アイリスの運転する車は、緩やかに優しく走り抜けた。
わたしは、サイドシートで流れる風景を眺めている。
ここは、花巻…賢治が愛したイーハトーブ。「とっても綺麗だね…アイリス」
『うん…今、イーハトーブを走っているんだね。』わたしたちは、言葉少なになっていた。

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やがて花巻空港の誘導灯が続く広い草地を横切って、川幅の広い北上川を渡ると行く手に学校の建物と敷地が見えてきた。
『もしかして、あれが花巻農学校かな?』
「うん、他に無いから、そうだと思う。駐車場はどこかしら?」
どこに止めてもいいくらい、田んぼや畑ばかりの場所だけれど、わたしたちは駐車場を探した。
やっと見つけた駐車場は、畑の片隅に申し訳程度整地した5台も止めたらいっぱいになってしまうくらいの小さなスペースだった。
車を止めて外に出ると、駐車場の回りは、ただ広い野原が広がっていて野葡萄の薄紫の実が風に揺れているのだった。
花巻農学校はぐるりと林に囲まれて周りは畑や田んぼや野原が続いていた。
思っていた以上にずっと長閑な風景に心和んだ。

手作りの「羅須地人協会は、こちらへ」の案内板を見ながら通りを渡って、石造りの裏門をくぐった。
後で知ったのだが、この裏門は、昔の正門を移築したものだそうだ。
まばらに植えられた雑木林を透かして、小さな家が見えた。

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『あれが、賢治さんの家かしら?』わたしたちは、ドキドキしながら、林の中の小道を歩いていった。
すると、今しがた家から出てきたばかりという感じで男の人が歩いてきた。
お互いにチラッと目が合い、『こんにちわ』とにこやかに挨拶を交わしすれ違った。
『初めて人に逢ったね。きっと賢治が好きな人なんだろうね。なんか優しい感じがしたもの』とアイリスが笑顔を向けた。
「うん、きっと、そうだよ。なんとなく見たことがあるような人だったね。」とわたしも答えた。

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質素なこじんまりした木造の家、いかにも賢治さんの家らしいなぁ…と、そう思った。

      野原の松の林の影のちいさな茅葺の小屋にいて…

雨にも負けずの一説が、わたしの胸をよぎった。

わたしの前を歩いていたアイリスが、一足先に、小道の最後の角を曲って家の正面に
立って、『ああ!…』と、小さく感嘆の声をあげた。わたしも続いて回りこんで見
て、同じように声をあげていた。

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「下ノ畑ニ 居リマス   賢治」

見たかったあの黒板の文字が目に飛び込んできた。
これが、賢治さんの文字…なんて優しい字なんだろう。
胸がキュンとなって、恥ずかしいけれど…何だか、訳も無く涙が溢れてきてしまった。

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「わぁ…なんだかとっても感動してしまったよ。涙まで出てきちゃって…
アイリス、連れてきてくれて本当にありがとう。こんなに感激するとは自分でも思わなかったよ。」
『わたしも、凄く、感動した。なんだか賢治さんに逢えた気がするね!』と、アイリスも涙ぐんでいた。
『おかあさん、入ってもいいのかな?ご自由にお入りくださいって感じでドアが開いてる。』
「きっと、さっきの人も入ったのだろうから大丈夫だよ。」
写真を撮っているわたしよりも、また、一足先に、アイリスは遠慮がちに靴を脱いで入り口の廊下にあがった。

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そして、机に置かれた雑記帳を覗き込んで、『うわぁ!凄い!!』と、驚いている。
「え?どうしたの?」と、不思議に思って訪ねると、『おかあさん、すごいよ、さっきすれ違った男の人、青梅の人だよ!』と言う。わたしも、びっくりして雑記帳を覗き込んだ。
“初めて来て感激しました。また来ます。東京都青梅市 ●●●●”の文字。なんて偶然なんだろう。
同じ日の同じ時間に、前後してこの場所を訪ねたのが、わたしたちと同じ街に住む人だったなんて…
こんな偶然もあるんだね。なんて話しながら、めぐり合わせの不思議さに、わたしたちはすっかり興奮してドキドキしてしまった。
そして、雑記帳に“母娘二人で賢治さんに逢いに来ました。いつまでもこの場所に、このままの形で残しておいてください。きっとまた、訪ねて来ます。”と書き込んだ。

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賢治さんの家は細い廊下を挟んで、洋室と和室とに別れていて、小さな階段で2階へと続いていた。
2階には、上がれないようになっていたが、下の部屋は自由に出入りできるようになっていた。

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わたしたちは、入ってすぐに、衣装掛けにかけられた賢治さんの外套とトランクに感動した。
そして、洋室に入ると、部屋の中央に置かれた火鉢と、それを囲むように円陣に置かれた木の椅子。
丸椅子だったり、背もたれのある椅子だったり、形のまちまちな椅子が、何気なく床に置かれている。
まるで、つい昨日まで、志をもった若い農業家や新しい農業の開拓に燃える青年たちが座り語り合っていたような錯覚に落ちた。
そして、青年たちが見つめる先の黒板の前に立って賢治先生が教えているような気がした。

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壁に飾られた賢治さんの写真や、原稿、楽譜、絵などを見ていると、すぐそばに、賢治さんがいるような気持ちになるのだった。
『おかあさん、やっぱりわたし、賢治さんに逢えたような気がするよ。ここに、居るみたいな気がするよね。』アイリスが感慨深そうにつぶやいた。

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和室に座り、そこから見える窓の外を眺めると、緑の芝生の庭が続き、その庭では農学校の生徒たちが、楽しげに寛いでいた。
「きっと、賢治さんは、いまでもここから生徒たちを見守っているのかもしれないね。」
そんなことを語り合いながら、わたしたちは、時間が止まったような賢治の家の中を眺めたのだった。

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本当に小さな質素な家なのだから、見て回るのにそんなに時間はかからない、
実際見ていたのは30分ほどだったかもしれないのに、長い時間が流れたような不思議な安らぎに包まれたのだった。

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名残り惜しいけれど、わたしたちは外に出た。
そして、庭を少し歩いて賢治の像のところまで行った。その像は、ベートーベンを真似て撮ったというもので、外套に山高帽を被った賢治がうつむきながら佇んでいる姿だった。

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アイリスは、賢治のこの写真が一番好きだと言う。
『賢治さんて、おしゃれな人だったんだと思うわ。』そう言って、笑いながら同じポーズをとったのだった。
わたしたちが、写真を撮りあっていると、講堂の中から出てきた生徒さんが、
『こんにちわ』と元気良く挨拶をしてくれた。見ると手にみな太鼓を持っている。
わたしたちも、挨拶を交わしながら、「その太鼓は何に使うんですか?」と訪ねてみた。
その生徒さんは、『これから鹿踊りの練習をします。』と答えた。
「あの伝統芸能の鹿踊りを学校の授業でやるんですか?」と訪ねたら、部活でやっているとのことだった。

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賢治さんは、子どもたちが鹿踊りの練習をしているのを見るのが好きだったという。
わたしは、見てみたいと思ったが、まだ、これから遠野へと向かわなければならないので諦めた。
太鼓だけを撮らせてもらい、「頑張ってくださいね!」と別れた。
生徒さんは、『ありがとうございます。』と元気良く答えて見送ってくれた。
『素直でかわいい高校生だね!』と、アイリスが大人びた顔で言ったので、つい、
笑ってしまった。

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わたしたちは、ゆっくりと、何度も賢治さんの家を振り返りながら、駐車場へと戻って来た。
静かで、誰にも逢わずにわたしたち二人だけで賢治さんの家で過ごした時間が凄く貴重な気がした。

『おかあさん、結局、誰も来なかったね。もしかしたら、今日、賢治さんの家を訪ねたのはわたしたちと、青梅から来たもうひとりの男の人だけだったのかも知れないね。』とアイリスが言った。
「うん、本当に不思議だよね。ここはメインの観光地から少し離れた場所にあるから、あまり訪れる人はいないのかも知れないね。」
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そして、わたしたちは、ここに来れたしあわせを噛み締めたのだった。
『では、遠野へと向かいます。目標は伝承園ですね!』と、アイリスは少しおどけて
言った。「はい、運転、よろしくお願いします!」わたしたちは、遠野へと向かっ
た。(続く)

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category: 森・山

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イーハトーブの旅(花巻へ) 

観光案内所で貰ったパンフレットを広げてみる。
このまま北上して八幡平にも行きたい気分だ。
ちょっと西に車を走らせれば小岩井農場もある。角館、雫石…そんな地名も魅力的だ。
でも、今回の旅は短い日程だから、無理なことはわかっていた。
わたしは、心の中で、「またいつかね…またいつかきっと来れるから…」と自分に言い聞かせたのだった。

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「高速道路も一般道路も、何故か到着時間があまりかわらないわ?一般道で行こうか?」
『そうだね、景色も楽しみながら行こうよ。』そう言いながら、アイリスはカーナビに、花巻温泉と入力した。

少し広めの真っ直ぐな道、どことなく秩父界隈の道を思わせるね。なんて、会話しながら街中を気持ちよく走り抜ける。
車は快適、アイリスの運転も快調だ。
これで、お気に入りの音楽が流れていたら言うことないドライブだね。

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やがて、車は、右折して花巻温泉へと田園風景の中を走るようになる。
『おかあさん、稲穂が綺麗ね~♪家のほうにも田んぼはあるけれど、何だか色が違って見えるわ。』と、アイリスが言う。
わたしも同じ事を思っていた。稲の穂がぴかぴか光って見えるのだ。それに、干草みたいに乾いた明るい黄金色をしているのだった。

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田んぼの所々にこんもりとした小さな林があり、その中に家が点在している。
「きっと、防風林なのね。こんなに広い平野を、冬には吹雪が駆け抜けていくのだろうね。」

『そうかぁ~!一面の黄金色の田んぼもいいけれど、どこまでも真っ白な雪景色も見てみたいね!
 それに、つんつんと元気な緑一面の夏の頃も綺麗だろうね。 』

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「そうね、緑の稲穂を揺らしながらキラキラとした風が渡っていくだろうね。そして、青々と水を湛えた田植えの頃の田んぼもね。透き通るような青空に残雪を頂いた早池峰山を映しているかもしれないわ」

わたしたちは、そんな景色を想像しながら、取り止めもなくおしゃべりをした。
やがて、鄙びた感じの花巻温泉へと着いた。
日帰り温泉の駐車場に車を止めて、山道を少し登るとすぐに、釜渕の滝への道標が現われた。
薊やヤクシソウ、ゲンノショウコ、つゆ草、野の花が楚々と咲く小道を辿って行く。
たおやかに舞うシロチョウや、ヒョウモンチョウ、足元ではシジミチョウやキチョウ、セセリチョウたちが花から花へとひらひらと舞っていた。

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『のどかだね…本当にここ、観光地なのかしら?さっきから誰にも人に会わないよね』とアイリスがつぶやく。
「本当に、三連休の中日には思えないね。紅葉の時季なら、きっと人が多いかもしれないけれどね」そんな事を話していたら、滝の音が近づいてきてあっけなく釜渕の滝が現われた。

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『わぁ!綺麗!こんなに簡単に辿り着けたのに、山奥にいる感じがするね』とアイリスが笑った。
釜渕の滝は大きな岩の上を、美しい弧を描いて流れ落ちる滑滝だった。
それほどの落差はないが、流れ落ちる速度が緩やかで、優美な感じのする美しい滝だ。
お天気が良かったなら、青空を映して水の色がもっと青く輝くことだろう。

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わたしたちは、貸切状態の展望台で、写真撮影を楽しんだ。
アイリスのカメラで、タイマー設定で思い思いのポーズで撮った二人の記念写真は、とても良い思い出写真となった。
それにしても静かで水音と小鳥の声しかしない。秋色となった頃にも想いを馳せながらわたしたちは滝を後にした。
すると入れ違いで、一組のご夫婦とすれ違った。
フルムーンかなぁ…穏やかに重ねた年月をいとおしむように、いつかわたしたち夫婦もこんな旅が出来たらなと思った。

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『次は、花巻農学校だね。』アイリスは次の目的地をカーナビにセットしていた。
この時点で11時、わたしは内心、ちょっと遠野までは厳しいかなと思った。
しかし、アイリスは行く気満々、『大丈夫、行ける所まで行ってみようよ!』と、頼もしい返事が返ってきた。ん!?「行ける所まで行こう」って、なんだか聞いたことあるセリフ(笑)

花巻農学校は、賢治が教師をしていた学校で、この約4年間の間に多くの詩や童話を書き遺している。
賢治は、生徒たちを通じて岩手の農家がとても貧しいことを知り、何とか貧しい農家を救いたいと考え、30歳で農学校を退職し、新しい農法の普及に心血を注いだのだった。
羅須地人協会を設立し、そこで農業講座を開設し、青年たちに農業を広め夢を熱く語り合ったという。
その羅須地人協会が、この花巻農学校の敷地内に移築されているのだそうだ。
実はわたしが、今回の旅行で一番訪ねたかった場所が、この羅須地人協会なのだった。(続く)

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