Admin New entry Up load All archives

風立ちぬ

日々の想いを風に乗せて…

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

category: スポンサー広告

CM: -- TB: --   

イーハトーブの旅(盛岡編) 

18日、仕事を終えて帰ってきたアイリスを待って家を出た。
小さな旅行カバンを抱え最寄の駅で電車を待ちながら、『おかあさん、いよいよだね。何だか信じられない気分!』とアイリスは嬉しそうにつぶやいた。
「そうだね。今日も仕事だったからね。ご苦労様!でも、今からは、仕事のことは忘れて楽しもうね!」わたしも、いよいよ始まる旅の予感に胸を膨らませていた。

22時、新宿駅西口に降り立ち集合場所に向かうと、各地へ向けて次々と夜行バスが発着し乗車する旅行客が溢れていた。
『こんなにたくさんの夜行バスがあるのね…』初めて夜行バスを利用するアイリスは驚いていた。
わたしも19歳の時、新宿発の尾瀬への夜行バスを利用した時以来のことだから始めてみたいなものだった。
わたしたちは、夜の高層ビル群の狭間に行きかう車や人の流れを見つめながら、ちょっとカルチャーショックだった。
ビルの前の階段やテラスには、何人ものホームレスの人たちが横になっていたり…
これから旅立つ、楽しげな人々が溢れる街角で、住む場所もなく路上にうずくまる人たち、賢治さんなら、この現実をどう捉えるのだろうか…などと考えていた。都会の光と影が交錯しているようでちょっと複雑な心境だった。

目的のバスに乗り込んでやっと一息、さぁ、これで一路盛岡へと向かう
「明日の朝には、盛岡に着いているんだね、何だかまだ実感が湧かないね。」
わたしたちは、そんな事をつぶやきながら目を閉じた。三回のトイレ休憩の度に、バスの外に出てみると、漆黒の夜空には星影はなかった。
途中、福島のサービスエリアに降りた時、福島に住む友達のRちゃんのことが浮かんだ。
いつか、Rちゃんを訪ねて福島にも行ってみたいと思うのだった。
そして4度目の停車で早朝の盛岡駅に着いた。
わたしたちは、あまり眠れなかったのでぼんやりした頭で駅前の片隅に降り立った。

hanamakid_779.jpg

いつのまにか、一緒に降りた数組の旅人たちは、どこかへと消えてしまっていた。
『おかあさん、やっぱりまだ盛岡に着いたって言う実感が湧かないね。』とアイリスがつぶやく。
「さて、どうしようか?とりあえず駅に行ってみようか?」と言うことで階段を登っていく。
駅前はやはりがらんとして不思議な形の銀のモニュメントが曇り空に輝いていた。

hanamakid_778.jpg

どんよりと曇った空の下、数えるほどの人しか歩いていない。駅の中の食堂も喫茶室もまだシャッターが下りたままでレンタカーの営業所も閉まったままだった。
わたしたちは、コインロッカーにボストンバックを預け、時間潰しに盛岡の街をちょっと散策してみることにした。

hanamakid_776.jpg


北上川の川岸を散策してみようかと静かな遊歩道を歩き出す。
冬には白鳥が飛来するという。緑の草地が続く遊歩道にはわたしたちの他に旅人の姿はない。
ひたひたと水が寄せる川岸には大きな柳の木があったり、遊歩道をマラソンする人々に行きあった。
出会った人たちは、みなさん「おはようございます」と挨拶をしてくださる。わたしたちは旅人に映るだろうか?
早朝の見知らぬ街を当てもなく歩くのは何だか不思議な面持ちがするものだった。

hanamakid_787.jpg

曇った空はますます重く鉛色で、山々の姿が見えないのは残念だと思っていたら、いきなり細かな雨が降り出してきた。雨はどんどん勢いを増してくるようだった。
「ケヤキの樹があるね。あの木の下で雨宿りさせてもらおうよ。」
わたしたちは、夕顔橋のたもとにある大きなケヤキの下に雨宿りをした。
まだ、雨は降らないだろうと思ったので傘をバックの中に置いてきてしまっていた。
「弱ったね、最初っから雨…傘を持って来れば良かったね。」
『何だか、だんだん、雨脚が強くなってるみたい。川の水も一気に増えてない?』
「ホントね。山では大雨が降ってるのかも知れないわ。どうしようか?材木町を歩くつもりだったけど諦めようか。」
『そうだね、少ししたら小止みになるかも、そしたら駅に戻ろうよ。けっこう、濡れないものだね。ケヤキさん、ありがとう。』
わたしたちは、そんな事を話しながら、雨に煙る川面や川向こうの街並みを眺めていたのだった。
しばらくすると、雨も小止みになってきたので、散策は諦めて駅へと戻った。
すると、どこから現れたのか、わたしたちの目の前を、旅姿の若いお坊さんが通り過ぎて行った。

hanamakid_789.jpg

朝の街角にお坊さん…不思議な取り合わせだなぁなんて考えていたら、お坊さんの姿は早くも街角に消えていったのだった。

hanamakid_782.jpg

駅の喫茶店で、コーヒーとクロックムッシュの朝食を済ませ、レンタカーを借りに行った。
なかなかきれいでかわいい車を借りて、わたしたちの気分は一気に盛り上がった。
「じゃあ、アイリス、疲れているだろうけれど運転よろしくね!」
『はい、任せておいて、最初はどこに行くの?』
「せっかく盛岡まで来たのだから、まず、盛岡城跡公園に行ってみようか?」
と言う訳で出発したが、慣れない街並みに駐車場が見つからなくてちょっとウロウロ。
ようやく見つけた地下駐車場は、まったくのガラガラ状態で私たちの車しか止まっていないのだった。

hanamaki_002.jpg


城跡公園は、とっても静かで、お堀の水面に緑の柳が影を落としていた。
話しかけるようにゆれる柳の下を
     通った道さえ今はもう電車から見るだけ…♪

hanamaki_134.jpg

なぜか、ユーミンの卒業写真のメロディが浮かんできた。
ユーミンの楽曲で「緑の町に舞い降りて」という盛岡を歌った曲もあるそうだ。

     輝く五月の草原を、さざなみ遥かに渡っていく
こんな歌い出しで始まる「緑の町に舞い降りて」五月の盛岡も良いだろうなと思う。
 
hanamaki_003.jpg


そして、やはり、わたしは

  やわらかに 柳青めり北上の 岸辺目に見ゆ泣けとごとくに 

と 歌った、石川啄木の短歌を思い出したりしたのだった。
「柳って、なんだかやさしいね…」

hanamaki_129.jpg

お堀の佇まいも、ひそやかで、作り物の鶴の置物が、なんだか本物に見えてきたりした。
犬を連れて散歩する人、数組の観光客、他には誰もいない。

hanamaki_010.jpg

緑滴る小道を巡れば、城跡の城壁が連なっている。

hanamaki_095.jpg

400年ほど前に築城されたという盛岡城。今は、その礎だけだ時を刻み続けている。

hanamaki_098.jpg

すると、アイリスがバラ園を見つけた。今朝がたの雨の雫をまとったバラの花の美しさに惹かれ、アイリスもわたしも、しばし夢中になってシャッターを押し続けた。

雫をまとった、ビビットなピンクのバラ

hanamaki_012.jpg

hanamaki_016.jpg

少しくすんだ薄紫は、とっても微妙な色合い。大人色のパープルシャドー

hanamaki_017.jpg

hanamaki_021.jpg

やわらかなクリームイエローのバラは、しあわせの黄色かしら。一粒の雫が美しい。

hanamaki_030.jpg

ベニシジミさんも翅を休めに訪れた。

hanamaki_037.jpg

hanamaki_039.jpg

鮮やかで、優しい…クリームイエローのバラが好きだって、
あなたが言ってたこと思い出しちゃった…

hanamaki_023.jpg

燃える恋のように、深紅のバラ

hanamaki_049.jpg

雫さえも情熱的に輝いている

hanamaki_053.jpg

好きだなぁ…

hanamaki_056.jpg

真綿の雲のようなバラの花

hanamaki_063.jpg

こんな純白なバラもあるんだなぁ…

hanamaki_064.jpg

清楚で素敵、花嫁さんのドレス見たい。

hanamaki_066.jpg


パールの輝きをまとったピンクのバラ、凛として美しい

hanamaki_068.jpg

こちらは、かわいらしいひなげしのようなバラ

hanamaki_067.jpg

同じような雰囲気のバラ…ツルバラの仲間、アーチや垣根にいい感じだと思う。

hanamaki_084.jpg

こんな一重の花も、わたしは素朴で好き。以前、家にバラのアーチを作っていた頃もあったなぁ

hanamaki_082.jpg

淡い生成りに、落ち着いた紅色がぼんやりと滲んで優しげな色合い。

hanamaki_075.jpg

不思議な色合いのバラ、二色の色が混じっていて、内側からにじみ出ているように見える。

hanamaki_077.jpg

かわいいオレンジ色

hanamaki_069.jpg

やっぱり愛らしいピンクのバラ

hanamaki_085.jpg

素敵だね…

hanamaki_089.jpg

トンボさんも、お気に入りみたい…

hanamaki_073.jpg

「バラなら、どこでも見れるんだけれど、今朝のバラはとっても綺麗、つい夢中になってしまったわ」
『うん、でも、本当に綺麗だものね~♪わたしもいっぱい撮っちゃった』

わたしたちは、バラ園を後にして、公園内を散策した。
大きな樹も目に付いてしまう

hanamaki_111.jpg

この樹はケヤキね。

hanamaki_115.jpg

最後に日時計を見て、名残惜しいけれど、わたしたちは盛岡を後にした。

hanamaki_135.jpg

『さぁ、このまま、花巻温泉に向かうね』「うん、よろしく、次は釜淵の滝だね!」
こうして、盛岡市を離れ、車は一路、花巻へと向かうのだった。(続く)
スポンサーサイト

category:

CM: 0 TB: 0   

きみにならびて野に立てば 


   きみにならびて野に立てば
  風きららかに吹ききたり
   柏ばやしをとどろかし
  枯れ葉を雪にまろばしぬ

   峯の火口にただなびき
  北面に藍の影置ける
   雪のけぶりはひとひらの
  火とも雲とも見ゆるなれ

   「さびしさや風のさなかにも
  鳥はその巣を繕はんに
   人はつれなく瞳澄みて
  山のみ見る」と君は云う

   ああさにあらずかの青く
  かがやきわたす天にして
   まこと恋するひとびとの
  とはの園をば思へるを 

雨ニモ負ケズの詩が書かれていた手帳に殴り書きのように書かれていた詩だそうです。
友達が教えてくれました。

きみに並びて…賢治が見つめているものは、早池峰山なのでしょうか。
アイリスと並んでその姿を目に焼き付けてきます。

花巻の人々は、宮沢賢治を「賢治さん」と親しみを持って呼ぶそうです。
ある高齢の女性は、『賢治さんに逢いたくなると、賢治さんの本を読むのです。
そうすると、賢治さんに逢えた気がして、嬉しくなるのです…』と、
まるで少女のよう頬を染めながら話していたのを、テレビで観たことがあるとアイリスが話してくれました。

とても、いいなと思いました。
「ねえ、アイリス、わたしたちも、賢治さんと呼ぼうか?」

「賢治さん、明日、わたしたちは、あなたに逢いに行きます。」


tabi_10.jpg



category:

CM: 2 TB: 0   

追憶の尾瀬 

秋の風が吹いて 舟をたたむころ
こんなしあわせにも 別れが来るのね…

風がそっと編むような、美しい長い髪の少女が歌っていた…
哀愁のページという美しいその歌詞を、この季節になるといつも思い出す。

涼やかな風がさざ波をたてて、吹き渡る初秋の尾瀬沼、
桟橋に繋がれた小舟
キラキラと沼畔の葦が輝き、湿原を巡る川は過ぎた季節を浮かべて流れる
ひっそりと、エゾリンドウは、青い蕾を膨らめている

akiiro0110.jpg
桟橋に佇む秋

akiiro0086.jpg
光る水面

akiiro0071.jpg
カルガモのヒナ

IMG0039.jpg
湿原を流れる川

rindou.jpg
雫をたたえたエゾリンドウ

hiutiura0052.jpg
ズミの実のレインドロップス


三本落葉松の橋を渡って、いく組かの旅人が通り過ぎてゆく
カンバの丘も、ヤナギランの丘も、彼方の燧ケ岳も高い空の下にある
そんな景色を、入り江に佇んで眺めていたのは、遠い過去のこと。

akiiro0044.jpg
三本唐松

akiiro0047.jpg
山小屋の入り江

akiiro0049.jpg
ヤナギランの丘…

hiutiura0144.jpg
秋色の木道遥か…

追憶の尾瀬沼
いつかもう一度、あの場所に立ちたい。

秋の風が吹いて 舟をたたむころに…

category: 森・山

CM: 8 TB: 0   

クラムボンはわらったよ。 

あと一週間、岩手のプチ旅行が近づきました。
もうじき、賢治の愛したイーハトーブに行けます。
とても、とても、楽しみです。
もう、行く事はないと思っていた憧れの地に行けるなんて夢のようです。

一人旅は大好きです。行こうと思えば行けない距離ではありません。
まだ、自分が働いているうちは、何とかやりくりすれば行ける場所です。
でも…いろんなしがらみがあって、行きたいからといって行ける環境ではないです。
娘が一緒に行こうと言ってくれなければ、行けませんでした。

こんな風に、わたしを連れ出してくれる娘に感謝しています。
ありがとう、アイリス。





賢治に逢いに行く、今、思えば、その伏線は今年の5月から始っていたのだった。
今年の5月のこどもの日に、マーガレットがスーパーに買い物に行ったら、おまけで、サワガニを二匹もらった。

『いりませんって言ったんだけれど、無理やり渡されちゃったのよ、どうしようか?』
そう言ってマーガレットは、ビニール袋に入れられた小さなサワガニをわたしに託した。
「え~?まだ、てっちゃんは喜ぶ年齢じゃないしね…飼い方もわからないし…」
わたしは、どうしたものかと思いながら、かわいい二匹のサワガニを見つめた。
そして、すぐに、宮沢賢治の"やまなし"の中に出てくるカニの兄弟を思い出していた。
大きいのと少し小さめの二匹のカニは、まるで兄弟のように見えたのだった。

とりあえずお菓子の入っていたブリキの缶に入れてみた。
サワガニは、かさこそ、かさこそと小さな音を立てながらブリキの缶の底をぐるぐる回っていた。
『ご飯粒なら食べるかも。』とマーガレットが言うので入れてみたが食べない。
「しらす干しなら食べるかな?」と、入れてみたがやっぱり食べない。
このままじゃ、死んでしまうだろう。かわいそうだから川に放してあげたいと思った。
「自転車で行ってきてもいい?」と聞くと、主人は『何を馬鹿なことを言ってるんだ。
そんなことより、さっさと夕飯の支度をしろ』と、怖い顔をした。

あきらめて夕飯の支度をしている傍らで、絶えずかさこそと音がしていた。
クラムボンはかぷかぷわらつたよ。…宮沢賢治の童話の一説が浮かんだ。
川底でカニの兄弟が、泡をはきながら、光に揺れる水面を見上げて話をしている場面を思い浮かべていた。

しばらくして、アイリスが仕事から帰ってきた。
そして、サワガニを見ると、『かわいい、これ、どうしたの?』と聞いた。
わたしが、ワケを話すと、サワガニの背中を指でつつきながら、
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』と言った。

しばらくして『おかあさん、このままじゃかわいそうだから川に逃がしてあげようよ。』と言うのだった。
「そう、おかあさんもそう思っていたの。ご飯を食べたら行こうか?」
と言うことで、アイリスの運転でサワガニを川に放しに行くことのなった。

やっぱり、出来れば水が綺麗な川がいいよね。と言うことで、車で20分ほどの成木川まで行くことにした。
この辺りなら、水も綺麗だし、大丈夫でしょうと、橋の上からカニを放してやった。
家に帰ると『いったい何処までいったんだ?馬鹿じゃないのか。』と主人に呆れられたけれど、わたしもアイリスも満足だった。

『おかあさん、あのカニ、大丈夫だよね?』「うん、きっと、大丈夫だよ!」
わたしたちは、月の光の差し込む川床を、2匹のカニがトコトコと歩いていく場面を想像していたのだった。


sawaganiss.jpg


宮沢賢治  / やまなし

小さな谷川の底を写した二枚の青い幻燈です。

 一、五月

 二匹の蟹の子供らが青じろい水の底で話ていました。
『クラムボンはわらつたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
『クラムボンは跳てわらつたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
 上の方や横の方は、青くくらく鋼のように見えます。
 そのなめらかな天井を、つぶつぶ暗い泡が流れて行きます。
『クラムボンはわらつていたよ。』
『クラムボンはかぷかぷわらつたよ。』
『それならなぜクラムボンはわらつたの。』
『知らない。』
 つぶつぶ泡が流れて行きます。蟹の子供らもぽつぽつぽつとつゞけて五六粒泡を吐きました。
 それはゆれながら水銀のように光つて斜めに上の方へのぼつて行きました。
 つうと銀のいろの腹をひるがえして、一匹の魚が頭の上を過ぎて行きました。
『クラムボンは死んだよ。』
『クラムボンは殺されたよ。』
『クラムボンは死んでしまつたよ………。』
『殺されたよ。』
『それならなぜ殺された。』
 兄さんの蟹は、その右側の四本の脚の中の二本を、弟の平べつたい頭にのせながら言いました。
『わからない。』
 魚がまたツウと戻つて下流の方へ行きました。
『クラムボンはわらつたよ。』
『わらつた。』
 にわかにパツと明るくなり、日光の黄金(きん)は夢のように水の中に降つて来ました。
 波から来る光の網が、底の白い磐(いわ)の上で美しくゆらゆらのびたりちゞんだりしました。
 泡や小さなごみからは、まっすぐな影の棒が、斜めに水の中に並んで立ちました。
 魚がこんどはそこら中の黄金(きん)の光をまるつきり、くちゃくちゃにして、おまけに自分は鉄いろに変に底びかりして、又上流(かみ)の方へのぼりました。
『お魚はなぜあゝ行つたり来たりするの。』
 弟の蟹(かに)がまぶしそうに眼を動かしながらたづねました。
『何か悪いことをしてるんだよ、とってるんだよ。』
『とってるの。』
『うん。』
 そのお魚がまた上流(かみ)から戻つて来ました。今度はゆっくり落ちついて、ひれも尾も動かさず
 たゞ水にだけ流されながら、お口を環(わ)のように円くしてやって来ました。
 その影は黒くしづかに底の光の網の上をすべりました。
『お魚は……。』
 その時です。にわかに天井に白い泡がたつて、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾のようなものが、
 いきなり飛込んで来ました。
 兄さんの蟹は、はつきりと、その青いもののさきがコンパスのように黒く尖っているのも見ました。
 と思ううちに、魚の白い腹がぎらっと光って、一ぺんひるがえり、上の方へのぼつたようでしたが、
 それつきりもう青いものも魚のかたちも見えず光の黄金(きん)の網はゆらゆらゆれ、泡はつぶつぶ流れました。
 二匹はまるで声も出ず居すくまつてしまいました。
 お父さんの蟹(かに)が出て来ました。
『どうしたい。ぶるぶるふるえているじやないか。』
『お父さん、いま、おかしなものが来たよ。』
『どんなもんだ。』
『青くてね、光るんだよ。はじがこんなに黒く尖つてるの。それが来たらお魚が上へのぼつて行つたよ。』
『そいつの眼が赤かつたかい。』
『わからない。』
『ふうん。しかし、そいつは鳥だよ。かわせみと言うんだ。大丈夫だ、安心しろ。おれたちはかまはないんだから。』
『お父さん、お魚はどこへ行つたの。』
『魚かい。魚はこわい所へ行つた』
『こわいよ、お父さん。』
『いゝいゝ、大丈夫だ。心配するな。そら、樺(かば)の花が流れて来た。ごらん、きれいだろう。』
 泡と一緒に、白い樺の花びらが天井をたくさんすべつて来ました。
『こわいよ、お父さん。』弟の蟹も言いました。
 光の網はゆらゆら、のびたりちゞんだり、花びらの影はしづかに砂をすべりました。

二、十二月

 蟹の子供らは、もうよほど大きくなり、底の景色も夏から秋の間にすつかり変りました。
 白い柔かな円石もころがつて来て、小さな錐(きり)の形の水晶の粒や、
 金雲母(きんうんも)のかけらもながれて来てとまりました。
 そのつめたい水の底まで、ラムネの瓶(びん)の月光がいつぱいに透とおり、
 天井では波が青じろい火を、燃したり消したりしているよう、あたりはしんとして、
 たゞいかにも遠くからと言うように、その波の音がひゞいて来るだけです。

 蟹の子供らは、あんまり月が明るく水がきれいなので睡(ねむ)らないで外に出て、
 しばらくだまつて泡をはいて天井の方を見ていました。
『やつぱり僕の泡は大きいね。』
『兄さん、わざと大きく吐いてるんだい。僕だつて、わざとならもつと大きく吐けるよ。』
『吐いてごらん。おや、たつたそれきりだろう。いゝかい、兄さんが吐くから見ておいで。
 そら、ね、大きいだろう。』
『大きかないや、おんなじだい。』
『近くだから自分のが大きく見えるんだよ。そんなら一緒に吐いてみよう。いゝかい、そら。』
『やつぱり僕の方が大きいよ。』
『本当かい。じゃ、も一つはくよ。』
『だめだい、そんなにのびあがつては。』
 またお父さんの蟹が出て来ました。
『もうねろねろ。遅いぞ、あしたイサドへ連れて行かんぞ。』
『お父さん、僕たちの泡どっちが大きいの』
『それは兄さんの方だろう』
『そうじやないよ、僕の方大きいんだよ』弟の蟹は泣きそうになりました。
 そのとき、トブン。
 黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうっと沈んで又上へのぼつて行きました。
 キラキラツと黄金(きん)のぶちがひかりました。
『かわせみだ』子供らの蟹は頸(くび)をすくめて言いました。
 お父さん蟹は、遠めがねのような両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから言いました。
『そうじゃない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、あゝいゝ匂(にほ)いだな』
 なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂いでいつぱいでした。

 三匹は、ぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追いました。
 その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るようにして、山なしの円い影を追いました。
 間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔(ほのほ)をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹が、もかもか集まりました。
『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂いだらう。』
『おいしそうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』
 親子の蟹は三匹で自分等の穴に帰つて行きます。
 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいているようでした。

 私の幻燈はこれでおしまいであります。


 ★ 宮沢賢治の童話/やまなし から引用



category: 日々の思い

CM: 4 TB: 0   

終わっていく季節に 

とんでもなく暑かった夏が、あの向日葵の写真の目の前で終わった感じがした…そんな写真でした。

わたしのブログの写真を見てくれた友人がこんな感想をくれました。
わたしも、この向日葵畑を見た時、夏は終わったような気がしました。
真夏のような陽射しの下で向日葵は元気に咲いているのに、どこか色褪せてセピア色…
やっぱり、写真にもそんな感じが写っていたんですね。
それを見抜いた友人は凄い人です(*^_^*)

kasumi_02.jpg


     終わっていく季節に

   丘の上、どこまでも続く向日葵畑で、
   夏がふっと立ち止まった。
   そして、さようならと手を振った。

   わたしは眩しさに目を細めた。
   記憶の中の夏は、色褪せることなく
   いつまでも、あの夏の日のままだけれど…

   終わっていく季節を
   セピア色になっていく後ろ姿を
   ただ、黙って見送っていた。

   向日葵畑に手を振って、
   あの輝く夏はどこへ行ったの

   大きな南風が吹いた日に
   どこか遠くの海の彼方に
   あの夏の日を連れて行ってしまったの

   そして、いつか知らぬ間に、
   木立ちの向こうに透明な風が佇んでいた
   色褪せたGパンとお日様の匂いの白いシャツを脱いで
   秋色の服に着替えようか
   優しい風に出逢うために…

category: 日々の思い

CM: 0 TB: 0   

秋の気配 

予定の何もない日曜日、アイリスと近所の里山を歩いた。
容赦なく照りつける太陽…
先日、一人で歩いてきたと言うアイリスは、わたしに見せたいものがあると言う。
『ひまわりの咲いている畑があるのよ』と、アイリスが案内してくれた。

kasumi_03.jpg

かなり広い畑の一角がひまわり畑になっていた。
「本当だ、すごいね!青空に白い雲、ひまわりときたら、真夏だね~♪」

kasumi_05.jpg

『次はね。川沿いに行くと、今度は稲穂が金色なのよ。』

kasumi_17.jpg

『つい、この間はまだ、緑の波だったのにいつの間にか、こんなに実っていたの。ここはもう、秋でしょう?』

kasumi_20.jpg

『あら?何かいるよ。』 「ほら、カエルだわ。」 『ほんと、かわいい!』

kasumi_22.jpg

「トンボがたくさん飛んでいるわ。」『カワセミいないかなぁ』そう言って水路を覗き込んでいたアイリスがさけんだ。
『あっ!カワセミ!お母さん見た!』
「残念ながらみそこなっちゃたわ! 仕方ないから、スズメの水浴びシーンを撮ろうかな」
『ここには、スズメ、たくさんいるね。可愛いなぁ』

kasumi_10.jpg

『この道を曲がったら、カールおじさんみたいな案山子が立っているよ』
「ほんとうだ(*^_^*)こっちを見て笑っているよ、ユニークね~!」

kasumi_29.jpg

長閑な里道を辿れば、すっと木陰を風が抜けていった。

kasumi_49_20100908010836.jpg

フェンスに絡まった烏瓜…まだ、色づいていないね。

kasumi_48.jpg

蔵のある小道、ちょっと入ってみたくなる。

kasumi_50.jpg

カワセミのねぐらがある谷戸にある小さなお寺。百日紅の花が咲いてる。

kasumi_53_20100908011809.jpg

『大きな百日紅の木だね。あの幹に触ってみたくなるなぁ…』
「そしたら、花をさわさわ揺らして、木が喜ぶよ、きっと。」

kasumi_54.jpg

アオサギが羽を休めていた池も、カワセミの番が飛び立った池も、今日はひっそりとしていた。

kasumi_55.jpg

『カワセミは、留守みたいね。今日は水路で餌を探しているのねきっと。』

kasumi_58.jpg

「百日紅の花って、お寺に似合うね…」と、独り言。
芙蓉の花咲く、坂道を登って行く。
「以前、ここでジョビコにあったわね。もう少ししたら、やってくるのね。」

kasumi_60.jpg

『うん、ジョビタも逢いたいね。そうそうあの先の茂みで、メジロをたくさん見たよね』
「芙蓉の花が綺麗ね~♪」
アゲハ蝶とツマグロヒョウモン、セセリチョウ、蝶たちも熱さにめげず跳びまわっていた。

kasumi_52.jpg

その坂を上り詰めた所から、今度は桜並木を下りていった。
暑さのせいかな、枯れた葉っぱが大量に道を埋めていた。涼しい木陰でツクツクホーシが鳴いていた。
「夏と秋が同居しているみたいだね」

kasumi_67.jpg

この白い花はなんのはなかな?

kasumi_73.jpg

そして、元の水田を抜けて家路に着いた。
「ねぇ、アイリス、今年は鷹渡りを見に行かない?」
『うん、行きたい!!』
外は物凄く暑くて、汗が流れたけれど、空は思ったより高くて、やはり、秋の気配がしていた。

kasumi_75.jpg

アイリスとの里山歩き、今日は、娘が案内してくれていた。
アイリスもいつの間にか、ナチュラリストの仲間入りしたような気がする。

category: 里山

CM: 2 TB: 0   

夏の終わりに… 

日々、猛暑、酷暑、残暑、そんな言葉が聞かれる今年の夏でした。
いつもの年なら、今頃は、勢いを失くして翳りゆく夏を惜しんだりしていましたが、今年はまだ、真夏のような気温です。

それでも早朝の空は、びっくりするほど高く澄んでいたり、日が短くなってきた夕焼け空は日に日に美しさを増してゆくような気がします。
日が落ちてからは、時おり涼しい風も吹いて虫の音もしきりと鳴き始めました。

夜こうしてPC に向かっていたりすると、riririri…riririと、虫の声です。
ふっと、透明な秋の風を追いかけて、旅に出たくなりました。

風立ちぬ 今は秋 今日からわたしは心の旅人…なんて、遠い昔、聖子ちゃんも歌ってましたね。
秋はやっぱり、物想う季節です。

9月5日生まれのお友達がいます。
昨年、重い病に倒れ、集中治療室で病と戦っておられたと聞きました。
ずっと心配しておりましたが、先日、「やっと、PCに向かいメールが打てるまでに回復しました」との短いメールをいただきました。
きっと、一生懸命に打ってくださったんだと思います。

Rさん、お誕生日おめでとう。
優しいご家族に囲まれて、お元気で、お誕生日を迎えられましたか?
一日も早いご回復を、祈っております。

IMG_3005.jpg


category: 里山

CM: 0 TB: 0   
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。